井上尚弥選手の試合を観ていて、「自分もやってみたいな」と思ったこと、ありませんか。
ここ数年、日本のボクシング熱は確実に高まっています。井上選手の4階級制覇、那須川天心選手のボクシング転向、中谷潤人選手の活躍。地上波で世界戦が放送されるたび、SNSは盛り上がり、観戦人口も増え続けています。
そんな中で「観ているだけじゃなく、自分も体を動かしてみたい」という気持ちが湧いてくるのは、自然なことだと思います。
私はアマチュアで7年、プロで13年ボクシングをしてきました。日本ランキング2位まで上がり、日本タイトルマッチのリングにも立っています。
現役を退いた今は、月1回のペースで初心者向けのボクシング教室を開いています。3年以上続けてきて、参加者のほとんどが40代から60代。そして面白いことに、多くの方が「ボクシング観戦が好きで、自分もやってみたくなった」という動機で来てくれるんです。
「観戦好き」と「自分でやる」の間にある壁
長年ボクシングを観てきた方ほど、こんなことを言います。
「目は肥えているから、自分の下手さが余計にわかってしまう」
これ、本当によく聞きます。
プロの試合を何百と観てきたからこそ、正しいフォームも、パンチのタイミングも、頭ではわかっている。でも、いざ自分がやると全然できない。そのギャップが恥ずかしいと。
気持ちはよくわかります。でも、安心してください。
観戦で培った「見る目」は、実は大きな武器になります。
「今のパンチ、手打ちになってましたよね」と自分で気づける方は、修正も早いです。何がダメなのかわからないまま続けるより、ずっと上達が早い。
「殴り合い」のイメージが邪魔をしている
観戦好きの方がボクシングを始めるとき、もう一つ大きな壁があります。
それは、「ボクシング=殴り合い」というイメージです。
試合では選手同士が本気でパンチを交換しています。あれを見ていたら、「自分もあんなことをするのか」と身構えてしまうのは当然です。
でも、健康目的のボクシングと競技は全くの別物です。
私の教室では、誰かと本気で打ち合うことはしません。ミット打ちが中心で、相手はトレーナーが持つクッションです。パンチを「受ける」ことは基本的にありません。
それでも、ボクシングの醍醐味は十分に味わえます。
構えを作って、ステップを踏んで、パンチを打つ。ミットに「パンッ」と当たる感覚は独特で、これがたまらなく気持ちいいんです。
観戦で気になっていた「あの技術」を体験できる
教室に来る方の多くが、実践的な練習を楽しみにしています。
「井上尚弥のあのボディ、どうやって打ってるんですか」
「カウンターのタイミングって、実際どう取るんですか」
観戦好きだからこそ出てくる、具体的な質問。これが嬉しいんですよね。
私も現役時代は左ボディが得意でした。だから「ボディの打ち方を教えてほしい」と言われると、つい熱が入ってしまいます。
元プロの指導を楽しみに来てくださる方も多くて、こちらとしても張り合いがあります。試合を観ながら「あの動き、この前教わったやつだ」と気づく瞬間があると、観戦の楽しさも倍増するはずです。
40代以上が気をつけるべきこと
観戦歴が長いと、頭の中にある「理想のフォーム」が明確です。それ自体は良いことですが、一つ注意点があります。
いきなり理想を追いかけすぎないこと。
プロ選手のパンチは、何千回、何万回と打ち込んで身についたものです。それを最初から再現しようとすると、体に無理がかかります。
特に40代以上は、関節や筋肉が若い頃ほど柔軟ではありません。
まずは6〜7割の力で、ゆっくり動きを確認する。フォームが馴染んできたら、少しずつ強度を上げていく。この順番を守るだけで、怪我のリスクはぐっと下がります。
また、少しでも痛みや違和感があったら、無理せず休むこと。これは本当に大事です。医療の専門家ではないので断定はできませんが、気になる症状があれば専門家に相談することをおすすめします。
「わかる」と「できる」の間で楽しむ
観戦好きの方には、独特の楽しみ方があります。
それは、「わかる」と「できる」のギャップを楽しむこと。
頭ではわかっている。でも、体がついてこない。その「もどかしさ」が、実は面白いんです。
「あのコンビネーション、簡単そうに見えたのに全然できない」
「ジャブってこんなに難しかったのか」
そう感じるたびに、プロ選手への尊敬が深まります。そして、少しずつ「できる」が増えていくと、また違う景色が見えてきます。
次に試合を観るとき、選手の動きの意味がもっと深くわかるようになる。これは、やった人にしか味わえない感覚です。
最初の一歩は、思っているより低い
「いつかやってみたい」と思いながら、何年も経っていませんか。
私の教室でも、「10年越しでやっと来ました」という方が珍しくありません。そして皆さん、口を揃えてこう言います。
「もっと早く始めればよかった」
完璧にできる必要はありません。最初から上手い人なんていません。
実際の教室でも、構えの作り方でつまずく方がとても多いです。でも、そこから少しずつ形になっていく過程が、何より楽しいんですよね。
まずは、テレビの前で軽くシャドーをしてみてください。鏡の前で構えを作ってみるだけでもいい。
観戦で「いいな」と思った動き、一つだけ真似してみる。それが、最初の一歩になります。
あなたのペースで、「観る」から「やる」へ踏み出してみませんか。



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